スクールカウンセラーをしていると、保護者の方からこうした相談をよく受けます。
- 朝起きない
- 勉強しない
- 外出しない
- 一日中ゲームの世界にこもっている
こうした子どもの姿を見ていると、「このままで大丈夫なの?」「この子は将来どうなるんだろう」と不安になるのは当然のことです。
でも、不登校の子がゲームにのめりこむのには、必ず理由があります。
そして、その行動は“怠け”や“逃げ”ではなく、子どもが心のバランスを保つために取っている「大切な回復のプロセス」であることも多いのです。
そこで今回は、不登校の子どもがゲームばかりになってしまう理由とご家庭での対処法についてお話していきます。
不登校の子がゲームばかりするのは「逃げ」ではない
①現実のストレスからの一時避難
不登校の子どもにとって「学校」という場は、本来“学びと成長の場所”であるはずが、大きなストレスの源になることがあります。
人間関係のトラブル、先生との相性、成績のプレッシャー──。
そうした心理的ストレスが限界に達すると、心と体が「これ以上耐えられない」と判断し、登校を止めるという防衛反応が起こります。
この段階の子どもは、いわば「心のエネルギー切れ」の状態です。
そんなとき、ゲームという世界は
- 自分のペースで進められる
- 他人に否定されない
- 失敗してもすぐにやり直せる
こうした安全で予測可能な環境を提供してくれます。
つまり、ゲームは「逃げ」ではなく、自分を守るための一時的な避難所としての役割を担っています。
心理学では、こうした行動を「回避」と呼びますが、それは心が壊れてしまわないための自然な回復プロセスでもあるのです。

② 承認欲求を満たせる場所
不登校の子どもは、学校生活で失敗体験を重ね、「自分にはできない」「自分はダメだ」と感じてしまうケースが多くあります。
この学習性無力感の状態から抜け出すには、小さな成功体験を積み重ねることが何よりも大切です。
- 目標が明確で、達成可能なステップが設定されている
- 努力すれば必ず報酬が得られる
- 自分の努力が「見える化」される(レベルアップ、アイテム獲得など)
こうした形で現実では得られなかった「できた!」という感覚を、ゲーム内で繰り返し味わうことで、自尊感情が少しずつ回復していきます。
ある研究(日本臨床教育心理学会 2022)でも、「ゲーム活動を通じて自己効力感(self-efficacy)が回復するケースがある」と報告されています。
つまり、ゲームで自信を取り戻している子どもも少なくないのです。

③オンラインのつながりが“孤立”を防ぐ
不登校の子どもは、学校に行けなくなることで社会的孤立を感じやすくなります。
友達との関係が途切れ、他者との関わりが減ることで、心のエネルギーがさらに低下してしまうことがあります。
しかし、近年のオンラインゲームやSNSには、「協力プレイ」「ボイスチャット」「フレンド機能」など、他者とゆるやかにつながれる仕組みが多く存在します。
現実では話せなくても、オンライン上では安心して交流できる。
これは、心の回復にとってとても大きな意味を持ちます。
もちろん、長時間の利用やネット依存のリスクには注意が必要です。
ただし、ゲーム内で人と関わることが、「また誰かと話したい」「自分にも居場所がある」と感じる社会的リハビリの第一歩になることも多いのです。
実際、学校復帰や社会参加を果たした子どもの中には、「ゲームを通じて人との関わりを取り戻した」ケースが少なくありません。

親ができる3つの対応
① 「やめさせる」よりも、なぜそうしているかを理解する
多くの保護者が最初にしてしまうのが、「ゲームばかりしていないで、勉強しなさい」「時間を決めなさい」といった制限や注意です。
けれど、実はこれは逆効果になることが少なくありません。
なぜなら、子どもがゲームに没頭している理由は、“現実のつらさから心を守るため”だからです。
そこを責められると、「理解してもらえない」と感じて、親との関係そのものがシャットダウンしてしまいます。
共感から関係を回復する
まず大切なのは、「ゲームをしていること」ではなく、「その行動の裏にある気持ち」に目を向けることです。
- 「最近どんなゲームしてるの?」
- 「どんなところが面白いの?」
こんな感じで“興味を共有する質問”から始めてみるといいと思います。
会話の中で、「自分の好きなことを話しても大丈夫なんだ」と感じると、子どもの安心感が回復していきます。
心理的安全性が高まれば、親子のコミュニケーションが戻り、「実は、学校のことを考えると気持ちが重くて…」など、心の本音が少しずつ出てくることがあります。

“敵”ではなく“味方”としてかかわる
親がゲームを“敵視”してしまうと、子どもは「自分の居場所を奪われる」と感じてさらに反発します。
大切なのは、ゲームの中身を知り、「この子が何を得ているのか」「どんな感情を満たしているのか」を理解することです。
まず「子どもを変える」より、「理解する」から始めることで、子どもの心の扉がゆっくりと開いていきます。

② 生活リズムを少しずつ整える
不登校の子どもの多くは、生活リズムが乱れています。
昼夜逆転や長時間のゲームは、脳の覚醒リズムやホルモン分泌にも影響を与え、さらに心の不調を強めてしまうことがあります。
しかし、いきなり「朝7時に起きなさい」「ゲームは2時間まで」と制限するのは現実的ではありません。
「できた感覚」を共有する小さなステップ
子どもと一緒に、現実的な小目標を立ててみるのもおすすめです。
- 今日は昼までに起きられたらOK
- 食後に10分だけ外の空気を吸う
- 1日の終わりに家族で話す時間を作る
このように「達成できそうな目標」を共有することで、自己効力感が少しずつ育っていきます。

「管理」ではなく「対話」で整える
ゲーム時間のルールも、「禁止」ではなく「相談ベース」で決めてみるといいかもしれません。
どうしたら楽になると思う?
こんな風に子どもの意見を聞く形に変えるだけで、「親に決められた」ではなく「自分で考えた」という主体性が生まれます。
③ ゲームの外にも「小さな成功体験」をつくる
子どもが再び外の世界へ目を向けるためには、「ゲーム以外にも自分の力を発揮できる場」が必要です。
ただし、それは勉強や登校に限る必要はありません。
家庭内での小さな役割やチャレンジでも十分効果があります。
家庭の中で“できた!”を積み上げる
- 家族の料理を一品担当する
- 家の掃除を任せる
- ペットの世話を継続する
- スーパーで買い物を頼む
こうした小さな成功体験が、「自分にも役に立てることがある」という自己肯定感を育てます。
心理的回復モデルでは、役割の再獲得が社会復帰の重要なステップとされています。
つまり、家庭での役割体験こそが、心の回復の第一歩になるのです。

ゲームの経験を“強み”に変える
ゲームの中で得た集中力や戦略性、協調性を、別の形で活かすこともできます。
- ゲーム実況や動画編集に興味を広げる
- ゲームをきっかけにプログラミングに挑戦する
- クリエイティブ系(デザイン・音楽制作)へ興味を伸ばす
「好き」から「できる」へとつながる経験は、再登校や社会参加への橋渡しになることが多いです。

ゲーム依存との違いを見極めるポイント
「やめられない」ではなく「他のこともできるか」を見る
「一日中ゲームしている」という表面的な行動だけで、すぐに“依存”と判断してしまうのは早すぎるかもしれません。
実際、心理学・精神医学の領域では、「ゲーム依存」と「一時的な熱中」には明確な違いがあります。
WHO(世界保健機関)は「ゲーム障害(Gaming Disorder)」を次のように定義しています。
“ゲーム行動がコントロールできず、他の活動よりも優先され、
日常生活・学業・人間関係に著しい支障をきたしている状態”
つまり、「コントロールの喪失」と「生活への支障」が鍵です。
不登校の子どもの中には、現実から離れて心を守るために一時的にゲームに集中しているケースが多く、それは“心の回復段階のひとつ”であって、病的な依存とは異なります。
依存と回復期を分ける3つのチェックポイント
| 観点 | 回復期のゲーム行動 | 依存が疑われる状態 | 
|---|---|---|
| コントロール | 自分でプレイをやめたり時間を 決められる | やめたいと思っても やめられない | 
| 感情 | 楽しさ・安心感が中心 | ゲームしないと不安・ イライラ | 
| 生活への影響 | 食事・睡眠・家族との会話が 保たれている | 食事や睡眠を犠牲にしても続ける | 
この3点のうち、特に生活機能が崩れているかどうかが重要です。
生活全体がゲームに支配されている場合は、医療的・心理的支援の検討が必要になります。

相談を検討すべきサイン
親が見ていて次のような状態が続く場合、専門機関に相談するタイミングと考えてもいいかもしれません。
- 食事・睡眠のリズムが崩れている
- ゲームを止めようとすると暴言・暴力が出る
- 家族との会話が極端に減る
- ゲーム以外への関心がほとんどない
- 「死にたい」「自分なんかいなくていい」と口にする
これらは単なる「ゲーム好き」ではなく、心のエネルギーが限界に達しているサインです。
相談先としては、
- 学校のスクールカウンセラー
- 教育支援センター(適応指導教室)
- 児童相談所・発達支援センター
- 心療内科・精神科(思春期外来)
などが挙げられます。
一度相談することで、親も子も「ひとりで抱えなくていい」と感じられ、家庭内の空気が和らぐことが多いです。

ゲーム依存の背景にある「報酬系の仕組み」
依存傾向が強くなる理由の一つに、脳の報酬系の関与があります。
ゲームでは、レベルアップや勝利の瞬間にドーパミンが分泌され、「快感」「達成感」を強く感じます。
この快感が繰り返されると、脳が「もっとほしい」と学習し、やめづらくなる構造が生まれるのです。
ただし、これは人間の自然な学習機能でもあります。
勉強やスポーツでも、成果を感じるとやる気が出るのは同じ仕組みです。
つまり、依存を単純に「悪い」とするのではなく、「何で満たされているのか」を理解する視点が大切です。
ゲームで感じている“達成感”を、現実世界でも少しずつ得られるようサポートすることが、回復の鍵になります。

支援現場から見える「抜け出しのきっかけ」
実際に支援現場で多いのは、ゲーム以外の何かに“興味が移る瞬間”が、立ち直りのきっかけになるケースです。
- 「ゲーム実況の編集をやってみたい」と言い出した
- 「ネットの友達に絵を描いてあげたい」と活動を始めた
- 「夜中にやるより、昼のほうが頭がスッキリする」と自分から気づいた
こうした変化が見られたとき、子どもはすでに自己調整を取り戻しつつあります。
親が「まだゲームばかり」と感じていても、その中に成長の芽があるかもしれません。
行動の中身を観察し、ポジティブな変化を見逃さないことが大切です。

回復への道筋
「ゲームがきっかけで立ち直った」子どもたち
現場で支援をしていると、「ゲームを通じて再び社会とつながり始めた」子どもたちに何度も出会います。
たとえば、ある中学2年生の男の子。
不登校になって半年以上、昼夜逆転の生活が続いていました。
親は「また今日もゲームばかり」と嘆いていましたが、その子はオンラインで協力プレイを通じて、仲間との会話を続けていました。
最初はゲームの話だけだったのが、次第に「学校ってどんな感じ?」と他の子の話を聞くようになり、「自分ももう一度行ってみようかな」と言い出しました。
ゲームの中で築いた「人とのつながり」「成功体験」が、現実世界にもう一度踏み出すための心理的なリハーサルになっていたのだと実感したケースです。
ゲームは「現実を生きる力」を回復するツールにもなる
心理学的に見ても、ゲームには「社会的スキル」「問題解決能力」「集中力」を育む要素があります。
米国心理学会(APA)の2015年の報告では、適度なゲーム利用は「認知的柔軟性」や「社会的協調性」を高める効果があると指摘されています。
特に協力型オンラインゲームでは、
- 仲間との連携
- 役割の分担
- 目標達成の戦略立案
こうしたものが自然に求められます。
これはまさに、現実社会で必要とされる「社会的適応スキル」と重なります。
もちろん、やりすぎは問題ですが、ゲームが“現実につながる練習場”になっているケースは少なくありません。

親が信じて「待つ」ことの力
親の「心配」と「焦り」は当然です。
けれど、不登校支援の現場では、“焦らずに信じて待てた家庭”ほど回復が早いという傾向が見られます。
子どもが「理解されている」「責められない」と感じたとき、心の中に安心感が生まれます。
その安心感が、「自分から動いてみようかな」という内発的な変化につながります。
強制的に変えようとするのではなく、「いつでも戻ってきていいよ」と伝えることが、最も強い支援になります。
回復のステップを焦らず見守る
回復には段階があります。
| 回復段階 | 子どもの様子 | 親の対応のポイント | 
|---|---|---|
| 第1段階:休息期 | ゲーム・睡眠中心、外出しない | 「今は休む時期」と認める | 
| 第2段階:安定期 | 家族と会話が増える、笑顔が戻る | 否定せず共感を続ける | 
| 第3段階:回復期 | ゲーム外の活動に興味を示す | 小さな挑戦を一緒に喜ぶ | 
| 第4段階:再挑戦期 | 外出や勉強への意欲が出てくる | プレッシャーをかけずサポート | 
どの段階にいても、「親が安心して見守る」ことが、次のステップへのエネルギーになります。
ゲームが「未来」へつながることも
最近では、ゲームを通じて新たな道を見つける子どもも増えています。
- eスポーツ選手や実況クリエイター
- ゲームプログラマー・デザイナー
- SNS発信や動画編集のスキルを仕事にする人
これらはほんの一例ですが、「ゲーム=無駄」ではなく、子どもの興味の延長線にある“未来の可能性”として見る視点も大切です。
学校という枠から一時的に離れても、学びや成長の道はひとつではありません。
大切なのは、「今の子どもを信じること」です。
おわりに
不登校の子どもがゲームに没頭するのは、心の弱さではありません。
むしろ、壊れかけた心を守ろうとする自然な力です。
親が「やめさせる」よりも、「理解しよう」と寄り添うことで、ゲームは“逃げ場”から“希望の足がかり”へと変わります。
焦らず、比べず、信じて見守る。
その姿勢が、子どもの「もう一度やってみよう」という気持ちを育てます。
ご家庭だけで見守ることが苦しくなったときは、ぜひお近くのスクールカウンセラーに相談してみてください。
今回も読んでいただきありがとうございました。
※この記事には一部生成AIの文章が使われています。









